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心不全とは、心臓の機能的もしくは構造的異常により、全身に十分な血液量を駆出できない状態です。心不全の原因としては心筋梗塞後の虚血性心筋症や弁膜症、ウィルスや薬剤性による心筋炎、拡張型や肥大型心筋症など様々な基礎疾患があげられます。内科的治療(ACE阻害薬、利尿剤、β遮断薬、強心剤、PDE阻害薬など)を行っても心機能が改善しない場合、大動脈内バルーンパンピング(IABP)や経皮的心肺補助装置(PCPS)といった循環補助を行います。IABPやPCPSは効果的な治療法ではありますが、治療の長期化が予想され、それらの治療でも秦功しない重症化した心不全は、左室形成術、心臓移植、心臓補助装置(VAD)植込み術といった外科的治療の対象となります。

図 NIPRO VAD 

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術前の心不全状態(右心不全の有無)や全身状態にもよりますが、VAD装着後は集中治療管理が必要です。長期人工呼吸管理や透析などの血液浄化を必要とする場合があります。VADの循環補助が安定されると、1?2週間程で術後急性期を乗り越え、一般病棟管理となります。慢性心不全治療と心臓リハビリテーションが主体となります。長期間の循環補助を安全に行うには、心不全の再燃、感染や脳障害などの合併症対策と同時に、全身状態の維持管理、すなわち日々の運動療法が重要となります。さらに、いつと分からない移植を待機している患者やdestination therapy目的の患者に対する精神的なサポートが重要であり、気持ちをリフレッシュさせることが必要とされます。気分転換には絵画、パッチワーク、テレビゲーム、インターネット、散歩など患者それぞれの趣旨嗜好にあった工夫が必要です。

2009年の臓器移植法改正により、15歳未満の未成年や本人の臓器提供の意思が不明な場合にも、家族の承諾があれば臓器提供が可能となりました。2009年には6件であった心臓移植手術も2010年:23件、2011年:31件と年々増加しております。その成績は1年生存率97.7%、5年生存率95.2%と極めて良好です。しかしながら、本邦における圧倒的なドナー不足から、平均移植待機期間は949.9日と長く、心臓移植待機患者199名のうち、2年以上移植待機しているのは72名(36.2%)におよびます(2011年1月31日現在)。多くは待機期間中、自己心臓のみでは循環を維持できないほど心不全が悪化しており、生命を維持する方法としてVADの装着が必要になります。心臓移植が適応の患者に対しては心臓移植認定施設に紹介いたします。

1980年代、ブラジルのDr. Randas Batista が拡張型心筋症に対して、バチスタ手術 (左室部分切除術 partial left ventriculectomy)を考案しました。収縮力が低下し、拡大した左室の一部を切除して、左室を縮小させ心機能の改善を図りました。日本では1996年に初めて行われ、1998年に保険適用されました。劇的な改善を認める症例がある一方で、遠隔心不全回避率が低いという報告もあり、その効果は予測がつきにくく、現在ではあまり行われていません。

図 バチスタ手術 拡張した左心室の後壁を切り取って左心室を縮小する。

心筋梗塞後に壊死した左室心筋が繊維し、左室の収縮力が著しく低下したものを虚血性心筋症といい、冠血行再建術のみで心機能の改善を図るのは困難です。Dorらは1985年に左室瘤にたいして心尖部側にパッチを用いて左室形成を行う術式Dor手術(endoventricular circular patch plasty)を考案しました。このような術式を虚血性心筋症にも応用し、左室の心機能改善を図ります。Dor手術は長軸方向に左室が短縮されてしまい、僧帽弁閉鎖不全が残存する懸念があります。虚血性心筋症に対する左室形成術には、左室が従来のだ円形となるように中隔側にもパッチを用いて形成するSAVE手術(septal anterior ventricular exclusion)や左室を切除せずに左室を縫縮するOverlapping術があります。梗塞部位や範囲に応じて手術術式を選択します。また、僧帽弁には左室から乳頭筋・腱索と呼ばれる弁下構造物が付着しています。拡張した左室により僧帽弁が左室側にひっぱられ(テザリング)、虚血性僧帽弁閉鎖不全が発生します。この虚血性閉鎖不全も心筋梗塞後の患者の生命予後を悪化させる重大な 要因の一つです。この虚血性僧帽弁閉鎖不全にたいし、僧帽弁形成術や置換術を行います。

図 SAVE手術 心室中隔に広範な梗塞巣がある場合には左室腔内にパッチを用いて容積を減少させる。

図 Overlapping術 左室前側壁を左室内に引き込み心室中隔にオーバーラップさせる。

図 NIPRO VAD 左図はダイアフラム式拍動型ポンプ。最大拍出量70ml/回。右図は駆動装置(VCT50)。

小さな羽根車を高速で回転することにより血流を生み出す軸流ポンプや遠心ポンプが開発されました。これらは構造が単純であることから耐久性・抗血栓性に優れており、さらに大幅な小型化が可能となりました。体格が小さい日本人にも装置を体内に植えこむ事が可能となりました。植込型VADにはEVAHEART(サンメディカル社)DURAHEART(テルモ社)があります。今後新たな2種類の植込型VADであるJarvic 2000 (Jarvic社)Heart MateⅡ(Thoratec社)が使用可能となる予定です。植込型VADは合併症が少ない上に、患者さんの生活上の制限も少なく、VADを装着したまま退院、職場復帰する事も可能となりました。植込型VADの装着は国内27施設に限られておりますが、北関東エリアでは当院と群馬県立心臓血管センターと共に認められておりいつでも装着可能です。

心不全

表 心臓移植適応基準

補助人工心臓とは、自分の心臓の働きを一部かたがわりする装置で、補助する場所により左心系を補助するLVAD、右心系を補助するRVAD、両心を補助するBiVADに分類されます。LVADは左心房もしくは左心室から直接血液を吸引して、上行大動脈に吻合した人工血管を通して血液を大動脈に送り出します。これにより正常の心臓と同等量の血液を全身に送ることができるようになります。
VADは主に心臓移植を受けるまでの橋渡し役(bridge to transplant)心機能回復までの架け橋(bridge to recovery)として使用されてきました。近年は移植を目的とせず、一生涯VADとともに生きていく長期在宅治療(destination therapy)目的に装着する例も増えています。
VAD装着の適用は、最大限の内科的治療やIABP、PCPSによる循環補助を用いても改善しない重症心不全症です。また、IABPやPCPS装置が長期間必要と予想される症例も適応とされます。しかしながら、不可逆性臓器障害、重症な感染症、高度血液疾患、悪性腫瘍、重症中枢神経疾患を併発している場合はVAD非適応と判断されます。 VADはその形態から、装置が体外に出る体外設置型、完全に体内に組み込まれる植込型に分類されます。わが国で使用されている体外設置型VADはNIPRO VAD(NIPRO社)BVS5000(Abiomed社)があります。現在、わが国で使用されているVADのほとんどはNIPRO VADであり、当院で使用されるVADもNIPRO VADです。

図 BVS5000 開心術後心不全などの急性期心不全からの回復が目的で、早期に離脱可能な症例に対し使用します。

NIPRO VADは人工心肺を使用し、心室細動下にて手術を行います。a.心尖部に脱血用カフを逢着します。b.心尖部カフを傷つけないように心筋を切り抜きます。c.心尖部カフに脱血カニューレを装着し、皮下トンネルを通して脱血カニューレを体外に出します。d.上行大動脈を部分遮断し、送血カニューレの人工血管を装着します。e.送血カニューレを体外に出します。ポンプ内に空気が入らないように注意しながら送脱血管にポンプを取りつけます。VADを駆動して人工心肺から離脱します。右心不全があり人工心肺から離脱できない時には、RVADを装着する事があります。

NIPRO VADはポンプ自体が体外に設置されており、送血管及び脱血管が腹壁を貫通して大動脈や心臓に接続されています。送脱血管の皮膚貫通部周囲に感染を起こしやすく、縦隔炎や敗血症に移行する可能性があり、日々の創処置が重要です。
ポンプは抗血栓性に優れたポリウレタンを使用しておりますが、ポンプ内に血栓を形成する事があります。ポンプ内血栓が遊離し、脳梗塞や血栓塞栓症を併発する恐れがあります。可動性を伴う白色血栓や急速に拡大した血栓が確認された場合は、血液ポンプを交換します。

血栓予防のため、低容量アスピリンによる抗血小板療法とワーファリンによる抗凝固療法を行います。NIPRO VADを装着した場合、至適PT-INRは3.0?4.0とされています。そのため、上部消化管出血や脳出血、術後出血によるタンポナーデを併発する事があります。
図 EVAHEART 遠心ポンプ型

図 DURAHEART 磁気浮遊型遠心ポンプ

図 Jarvic2000 軸流型ポンプ。最大流量7l/min。

図 Heart MateⅡ 軸流型ポンプ。ポンプ流量3-10L/min。