単語/熟語研究 (3):Reise


 ドイツ語の "Reise" と日本語の「旅」(または「旅行」)の間には、微妙でありながら明確な意味の差があることに気がついている人もいるのではないでしょうか。、日本語の「旅」は大体 Reise と訳しても大丈夫ですが、Reise は「旅」と訳せないことがよくあります。

  まず平均的な日本人のもつ、伝統的な「旅」(または「旅行」)のイメージを確認するために、日本語の辞書を引いてみましょう:

 日本語の「旅」の範囲は、「旅に出る」から「旅から帰る」までの間ですから、家を出発して再び戻ってくるまでの往復運動全体を「旅」とよんでいます。しかし帰路につく時点で「私の旅は終わった」と言うことも可能ですから、狭い意味では目的地で観光や宿泊をしている期間だけが本来の旅であるともいえます。

 日本語の「旅」の語感を確認した上で、ドイツ語の Reise の意味範囲を検討することにしましょう。

 最初に言いましたように、Reise が表す意味範囲は「旅」より広いのですが、ドイツ語の Reise は、2つの意味に大きく分けて考えた方が良さそうです。ひとつは日本語の「旅」にほぼ相当する意味であり、もうひとつは単に「乗り物に乗る」ということです。前者を仮に「Reise1」(動詞の場合は「reisen1」)とし、後者を「Reise2」(または「reisen2」)として話を進めることにします。

 例によって、語源をさかのぼって検討してみましょう。Reise は古高ドイツ語では reisa という形で登場しますが、この単語は「出発」を意味していたようです。reisa に対応する動詞は risan(強変化動詞)と reison(弱変化動詞)の2つがあります。前者、つまり強変化の risan は、英語の rise と関係があり、「上っていく」「下っていく」という意味を表していましたが、この動詞は新高ドイツ語の時代になって消滅しました。現在の reisen の先祖は弱変化の reison のほうで、こちらは名詞 reisa(現在のReise)から派生した動詞です。

 そういうわけで reisen は「出発する」というイメージからスタートしていることが分かります。現在でも reisen は「旅立つ」という意味で使われることがあります(つまりabreisen の意味を reisen だけで表現できるということです)。

 「出発する」から始まって、reisen は次第に「(遠距離の)目的地まで移動をする」ことを表現するようになりました。これが現在の reisen の中心的意味であると私は考えています。reisen が大抵の場合 sein 支配となるのはそのためです。reisen が最初から「旅行をする」eine Reise machen ことを意味していたなら、haben 支配となるはずです。

 次の文例をご覧ください。reisen が「旅」の全行程の内の移動過程のみを表現していることが分かるでしょう。

 分かりやすく言えば、reisen2 は fahren とほとんど同義であるということです。ただ reisen のほうは短い距離には使えないという制限があるだけです。つまりreisen2 はfahren の一種にすぎません。したがって、Reise2 は Fahrt(飛行機の場合は Flug)の一種であるということになります(Fahrtは「乗り物に乗ること」なのですが、どうもぴたりとする日本語が見つかりません)。

 Duden (Das Grosse Woerterbuch) は Reise を次のように、あっさりと定義しています(これは Reise 全体の説明です)。

 reisend(reisenの現在分詞)を名詞化した Reisende[r] は、reisen1とreisen2の意味の差にしたがい、「旅行をしている人」と言う意味と、単に「(列車や飛行機などの)乗客」という2つの意味があります。

 以上をまとめると――

ドイツ語の Reise は「往路」に意味の重点をもつ「旅」である。時にはその意味が弱まり、単に laengere Fahrt(または Flug)の意味で使われることも多い。