専門別

                                         解説動画はこちら

胃疾患(胃がんについて)

1.胃の場所と働き

 胃は上腹部のほぼ中央(みぞおち)に位置する40~50cmの袋状の臓器で、これに25~30cmの長さの十二指腸が背中側を右から左に横切るように連続しています(図1)。

            胃1胃2

                   図1 胃の位置と形

 胃の壁は内側から粘膜、粘膜下層、筋層、漿膜の4つの層からなり、粘膜には多数のヒダと小さなくぼみ(胃腺)があり、胃液を分泌しています。胃液は無色透明で、塩酸および消化酵素(蛋白質を分解するペプシン)を含んでいます。
 食物(食塊)は胃に貯留されたあと胃酸で殺菌され、ペプシンによって半消化されてドロドロのお粥状に変化します。この内容物は、胃の蠕動(ぜんどう)運動により通常食後3~6時間かけてゆっくり十二指腸へ移送されます。

 この胃と十二指腸の働きは自律神経や消化管ホルモンによって綿密にコントロールされています。

 

2.ピロリ菌ってなに?

 ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)は1983年に初めて胃の中から分離培養された2~8本の鞭毛を持つらせん状桿菌です(図2)。発見者は2005年にノーベル医学賞を受賞しました。どうして強い酸性の胃の中で生きていられるのかというと、酵素(ウレアーゼ)を分泌して胃の中にある尿素をアンモニアに変えて胃酸を中和しているからです。

            胃3胃4

                     図2 ピロリ菌

 ピロリ菌は、胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍だけでなく、胃リンパ腫、胃がん、血小板減少性紫斑病に関連があることがわかり、ピロリ菌の除菌療法の適応が広がりました。

 

3.胃がんについて

 胃粘膜に発生する悪性腫瘍で顕微鏡的にはほとんどが腺がんです。胃がん患者の男女比は約2:1で男性に多く、年齢は40~70歳で年齢層は65-69歳代が最多です。発生部位は胃の下部が40.8%、中部39.6%、上部17%、その他胃全体に及ぶものもあります。がん浸潤が胃の壁の粘膜下層までにとどまる「早期胃がん」と、筋層以下に浸潤した「進行胃がん」に分類されます(図3)。

       医5

                  図3 胃がんの深さ(深達度)

 がんが深くなるほどリンパ節や肝、肺などの臓器に転移する頻度が高くなり、胃の壁の外側に達してがんが露出するとお腹の中にがんが散布されて拡がり、膵臓など隣接した臓器に食い込むように進展していきます。

 

4.胃がんの原因は?

 これが胃がんの原因と単純に言い切れるものはありませんが、ピロリ菌感染、塩分の過剰摂取、喫煙、肥満などが挙げられます。

 日本は世界中で最も胃がんの多い国として有名で、悪性腫瘍の死因として1993年に肺がんが最多になるまでは胃がんが長年第一位でした。日本人に多いためその食生活から焼き魚のこげが原因と考えられたりもしましたが、現在ではピロリ菌感染に高塩分食が加わると胃がんのリスクが上昇すると考えられています。一般に加齢とともにピロリ菌の感染率は増加しますが、衛生環境の改善によりわが国の若年者の感染率が年々低下しており(図4)、塩分摂取量の減少と相まって、将来的な胃がんの発病率の低下が期待されています。

     胃6

            図4 日本の年齢別ピロリ菌感染率の推移

 

5.胃がんの症状

 早期胃がんでは症状がないことが多く、検診で発見されたか、たまたま症状が出現して検査を受けたら偶然発見された方がほとんどです。胃がんが進行すると上腹部の痛みや膨満感、吐き気や食欲不振、体重減少などがみられるようになります。貧血や吐血、黒色便などの胃がんからの出血症状で見つかる場合もあります。多量の腹水が貯留するとお腹がパンパンに膨れる場合もあります。

 

6.胃がんの検査

 胃がんの診断で最も重要なのは内視鏡検査です。早期胃がんではわずかな粘膜の凹凸や色調の変化を示します。小さな早期胃がんの拡がり診断には色素内視鏡や特殊光観察が有用です(図5)。進行胃がんでは腫瘍が隆起あるいは潰瘍を作るようになります。胃がんの確定診断のためには、内視鏡の先から生検鉗子という器具をだして組織をつまみとり、顕微鏡でがんかどうかを判定します。内視鏡検査がどうしても苦手という方は、細経スコープを用いた経鼻内視鏡や鎮静剤の使用で寝ている間の検査も可能ですので相談してください。

        胃7胃8

              図5 通常観察と色素散布後の観察

 胃がんと診断された場合胃がんの深さや体の中のがんの拡がりを検査して進行度(Stage)を決定する必要があります(図6)。

         胃9

        図6 胃癌の病期(ステージ)分類(胃癌取扱い規約第14版)

 通常の内視鏡検査は粘膜の表面からの観察です。胃の中に水をためて行う超音波内視鏡検査は胃がんの深さを正確に診断できるほか、胃がんに隣接した内臓との関係やリンパ節転移の有無もわかります(図7)。

         胃10

         図7 早期胃がん(左)と進行胃がん(右)の超音波内視鏡像

 さらに遠くのリンパ節転移、そして肝臓、肺、骨などの遠隔転移や腹膜転移などの有無をCT(図8)、MRI、PET(図9)等で確認して病期診断(ステージ分類)を行い、最善の治療方針を決定することになります。

   胃12胃13胃14

     図8 胃がんの肝転移(CT画像)   図9 リンパ節や肝転移(PET/CT画像) 

 

7.胃がんの治療

 胃がんの治療は日本が世界をリードしてきました。基本的な胃がんの治療法は、胃の2/3以上の切除とリンパ節郭清です。過去の膨大なデータを解析した結果、最も安全で治療成績が良いことが示され、日本胃癌学会による胃癌治療のガイドラインでも定型手術として推奨されています。ただし、胃の切除後は小胃症状(食事量の減少)やダンピング症候群、逆流性食道炎などの後遺症が出現するため、早期胃がんの場合は内視鏡的切除や患者様の負担を軽減する腹腔鏡手術を行っています。

 実際にはその進行度(Stage)によって内視鏡的切除、外科的切除(手術)、薬物療法(抗がん化学療法、分子標的治療、免疫療法)などから最善の治療が選択されます(図10)。

  胃15

      図10 獨協医科大学第一外科の基本的な胃がんの治療方針

 

(1)内視鏡的切除

 内視鏡的切除とは、胃カメラで高周波ナイフや止血鉗子を駆使して、胃がんを含む粘膜をはぎ取るように切除する方法です(図11)。図11に示すようなリンパ節転移の可能性が限りなくゼロに近い条件を満たす早期がんに行われています。手術手技の向上と手術器械の進歩により穿孔や出血などの合併症もほとんどなく、数日で退院可能であり後遺症もありません。術後に人工的な胃潰瘍が出来ますが、潰瘍の薬を服用して数週間で治癒します。

   胃16胃17胃18

                   図11 内視鏡的切除

           胃19

          図12 内視鏡的切除の適応(胃癌治療ガイドライン第3版)

 

(2)手術療法

 手術療法のアプローチには腹腔鏡手術と開腹手術があります(図13)。腹腔鏡手術は、おへそからお腹の中に入れたカメラの画像を見ながら行なう手術で、画像診断でリンパ節転移がないと診断された早期胃がんの患者様に行っています。腹腔鏡手術には①傷が小さい、②出血量が少ない、③疼痛(痛み)が軽い、④術後の回復が早い、⑤腸閉塞の合併が少ないなどの利点があります。一方、進行がんの患者様には、広範なリンパ節郭清や他臓器合併切除など、必要あれば術式の拡大が可能なため、開腹手術を行います。

                 胃20胃21

            図13 腹腔鏡下胃全摘(左)と開腹胃全摘(右)

 

(3)薬物療法(化学療法)

 切除不能な高度進行胃がんや再発胃がんに対しては、抗がん剤を中心とした化学療法を行います。内服薬のS-1と注射薬のシスプラチンの組み合わせの効果が高く、ガイドラインでも推奨されています。他にも有効な薬剤が開発されて、以前に比べて高い腫瘍縮小効果を期待できるようになりましたが、現時点では完全治癒は困難です。ただし、生存期間は確実に延長することが明らかになっていますので、副作用に十分注意しながら化学療法を継続することで長期生存も期待できます。

 最近はがん細胞にだけ存在する物質に対する抗体(分子標的治療薬)の開発も盛んに行われており、胃がんでもトラスツズマブ(ハーセプチン)が有効であることが立証され、他の抗がん剤と併用されるようになりました。

 また治癒切除可能であった場合でも、Ⅱ期、Ⅲ期の患者様はS-1を術後1年間内服することで再発率が10%低下することが証明され、術後補助化学療法として行っています。

 

(4)その他の治療法

 施設によっては放射線療法や重粒子線治療などが試されていますが、安全性や有効性は確立されていません。

 

8.胃がんの転移と再発

 手術で胃がんを切除しても、体内に微小ながん細胞が残っていた場合には、術後に転移が明らかになり、転移臓器に関係した症状が出現することがあります。これを再発と言います。

 胃がんの転移・再発には3つの形式があります。①がん細胞がお腹にばらまかれた腹膜転移(がん性腹膜炎)、②血液の流れにのった血行性転移(肝、肺、骨などへの転移)、③リンパの流れにのったリンパ行性転移(リンパ節転移)です(図14)。手術後、最低5年間は採血やCT、内視鏡などの定期的な検査が必要です。また再発が確認された場合の治療は、前述した薬物療法が中心です。

              胃22

         図14 胃がんの転移様式(病気がみえるvol.1消化器より)

 

9.手術件数(胃がん、胃粘膜下腫瘍を含む)

  胃23

 

10.患者様へのメッセージ

 私たち第一外科のスタッフは、ナースや他科のドクター、薬剤師と密に連携し、常に患者様に寄り添い、最善の治療を行うよう心がけています。どんな病状でも安心して病気の治療が受けられるように最大限努力いたしますので、まずは外来でご相談ください。

 

                                         解説動画はこちら