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食道疾患(食道がんについて)

1.食道がん

① 疾患の概要

 食道は咽頭と胃を結んでいる管状の臓器で、いわゆる喉(のど)の少し下から胃にいたるまでのパイプ状の通路です。(図1)。食道のほとんどは胸の中にあり、胸の上部では気管と背骨の間、下部では心臓、大動脈、肺に囲まれています。食道がんは食道内側の表面(粘膜)に発生したもので、進行すると食道の外側まで拡大し、さらには気管、大動脈、肺、心臓まで拡がることがあります。また、リンパの流れに乗ったがん細胞は食道周囲のリンパ節だけではなく、お腹や首のリンパ節にも転移し、さらに、血液の流れに乗ると、肝臓、肺、骨などへと転移します。

 図1 食道の解剖

② 原因

 食道がんにかかる原因ははっきりとは特定できませんが、50歳以上の男性で、タバコを吸う方、お酒をたくさん飲む方が食道がんに罹患する可能性が高くなります。しかし飲酒や喫煙をされない方でも食道がんにかかる方はいます。また、咽頭(のど)や口、喉頭などのがんに罹った人は食道がんに罹りやすいことがわかっています。 食道がんの罹患率は男性が女性の約6倍で、男性では6番目に多いがんで、発病年齢は60歳代がもっとも多くなっています。

③ 症状

 がんが小さいときには症状はほとんどありませんが、がんが少し大きくなると食道の内側が狭くなり、肉などの固形物がつかえるようになります。 食べ物がつかえると徐々に食事量が減り体重が減少します。さらにがんが大きくなると食道の内側をほぼ完全に塞いで水も通らなくなり、唾液も飲み込めない状態になります。そして胸の奥や背中に痛みを感じることや、声がかれるといった症状が出現することもあります。

④ 検査法

 通常はバリウムを飲んで行う食道造影検査(図2)と胃カメラで行う内視鏡検査(図3)で診断されます。食道造影検査ではバリウムが食道の内側を流れるときに、粘膜に傷がないか、コブが飛び出していないか、狭くなっていないか調べます。しかし、がんが小さいと造影検査では発見できないこともあります。 内視鏡検査では口から内視鏡を飲み込んでいただき、食道の内側を観察します。小さながんはなかなか見分けがつきませんが、ヨード液を使うと容易にがんを区別できます(図4)。
 食道がんの診断がつくと、リンパ節転移、遠隔転移(えんかくてんい)の状況を調べるために、CT検査、MRI検査、PET検査などが行われています。CT検査(図5)とは、X線コンピュータ断層撮影法のことで、身体の輪切りの像(横断面)を描き出し、胸の中やお腹の中に異常がないかを調べる検査です。単純撮影と、造影剤を注射して撮影する造影撮影があります。造影剤が身体に入る時に熱い感じがありますが、その他にはほとんど苦痛のない検査です。PET検査(図6)は放射性薬剤が正常細胞よりもブドウ糖の代謝が盛んであるがん細胞に取り込まれるため、リンパ節転移や遠隔転移(えんかくてんい)の状況を調べるのに有用です。主に治療前診断、治療効果の判定や再発の診断などに高く評価されています。 さらに必要に応じて気管支内視鏡検査などが行われることもあり、こうして進行度を決定したのち、患者様とも十分にお話しをした上で、治療方針を立てて行きます。

食道図2 図2  食道図3 図3

食道図4食道図4-2 図4

(内視鏡検査 左:通常観察の写真  右:ヨード液散布後 色の抜けている部分が食道がん)

食道図5 図5

(CT画像 左:健常な方  右:食道がん患者様 矢印部分の食道が大きく腫れている)

食道図6食道6-2 図6

(PET画像 左:健常な方  右:食道がん患者様 食道がんの部分が黄色く映し出されている)

⑤ 治療法(内視鏡治療、手術療法、化学療法、放射線療法

 食道がんの治療法には、内視鏡治療、手術療法、化学療法(抗がん剤治療)、放射線療法があります。それぞれの治療法には長所と短所があり、どの治療法を選択するかはがんの拡がりの程度や身体の状況によりそれぞれ違いがあります。病気の具合によっては、それぞれの治療を組み合わせた治療法(集学的治療)を行う場合もあります。 ここではそれぞれの治療(図7)について解説します 。

食道図7 図7

内視鏡治療

 内視鏡治療は、内視鏡で見ながら食道の内側からがんを切り取る方法です。がんが食道内側の表層(粘膜層)だけにとどまる場合に行います。治療期間は病変の大きさにより、1~2時間程度で終わり、入院も数日から1週間程度で済みます。

手術療法

 手術療法は全身麻酔で、胸部と腹部の食道と胃の一部を切除して、残った胃を用いて食事の通り道を作る再建(さいけん)を行う手術が最も一般的な方法です。病気である食道と、がんが転移する可能性のあるリンパ節を一緒に取り除くため、同時に胸と腹と首の3ヶ所を切ることになります(図9)。食道がんの手術は手術時間も長くなり、身体への負担もかかります。しかし最近では手術方法や手術後の管理法も進歩してきています。私どもは比較的早期の食道がんに対しては胸腔鏡手術や腹腔鏡手術といった、細いカメラと手術器具を体内に入れて行う手術法を採用しており(図10)、術後の患者様の負担軽減に努めております。通常は手術後2週間から3週間程度で退院となります。

図9 図9 通常の食道がん手術の術後創部

食道図10 図10

(胸腔鏡と腹腔鏡を用いた手術の術後創部)

化学療法(抗がん剤治療)

 化学療法(抗がん剤治療)はがん細胞を殺す薬を投与します。投与の仕方は食道がんでの現状では点滴のみで、何種類かの抗がん剤を組み合わせて使うことが多くみられます。しかし「この薬を使えばがんが消えてなくなる」というような特効薬はまだ開発されていません。化学療法単独による治療は他臓器に転移のある方や術後の再発した方に主に行われます。

 そのほかには他の治療法と組み合わせて行われることも多く、手術前や手術後に投与される場合もあります。最近では、進行癌に対して手術前に抗がん剤治療を行ってから手術を行うという方法が採用されることが多くなっており、私どもも適応に応じて行っております。これまではシスプラチン+5-FUが最も多く用いられてきましたが、最近ではドセタキセルという薬も加えた3剤同時の投与法も行われています。 私どもは、第一選択として上記3剤(ドセタキセル、シスプラチン、5-FU)併用療法を行っております。また、化学療法が非常に効いた患者様に対しては、場合によっては手術で食道を切るのではなく、放射線療法を併用してがんを消失させるという方法も行うことがあり、比較的良好な成績を得ております(図11)。

食道図11 図11

(ステージⅡ、Ⅲの生存率:化学療法+手術 もしくは 化学療法+化学放射線療法を行った患者様全体のもの)

放射線療法

 放射線療法は、高エネルギーのX線などの放射線を当ててがん細胞を殺す治療法です。食道の病気の範囲を治療する方法で、食道自体のはたらきを温存することをめざした治療です。手術ほどの負担はありませんので、手術をのりきるだけの体力がない方も放射線治療を受けられます。最近は、放射線単独療法に比較して、化学療法と放射線療法を同時に行うことで生存率を向上させることがわかっています。手術に適さないあるいは希望されない方に対して、同時化学放射線療法は標準的な治療として推奨されています。私どもは、同時化学放射線療法の際にも3剤(ドセタキセル、シスプラチン、5-FU)併用化学療法を基本として採用しており、良好な治療成績を得ております(図12)。

食道図12食道図12 図12

(化学放射線療法前後の内視鏡写真)  

左:化学放射線療法前 非常に大きな食道がんを認める  

右:化学放射線療法後 がんが消失している

⑥ 転移と再発

 食道癌の転移はリンパ節に最も多く認められ、範囲は胸部だけではなく、頸部や腹部にも転移を起こすことがあります。その他、肺、肝臓、骨などにも転移を起こします。 再発に関しても同様であり、食道癌の全手術症例(2005年)の5年生存率は全国平均で50%程度となっています。

 

2.逆流性食道炎・食道裂孔ヘルニア

 逆流性食道炎は主に胃酸の逆流によっておこる病気です。代表的な症状は胸やけです。この病気は食道裂孔ヘルニアという、胃の一部が胸の方に上がってしまう状態にある人に多くみられます(図13)。治療の基本は生活の改善や、胃酸の分泌を抑える薬の内服ですが、それでも症状が改善しない場合などは手術を行います。最近は過去に開腹手術をされたことがあるような特殊な患者様を除いて、腹腔鏡で手術を行っています。

食道図13 図13

(食道裂孔ヘルニアの食道造影画像 胃の一部が胸部に脱出している。矢印部分が食道と胃の境界部)

 

3.食道アカラシア

 食道アカラシアとは人口約10万人に対して一人が発症する、比較的めずらしい病気です。胃との境界部の食道が収縮したままの状態となり、食事や水分がつかえるようになります(図14)。症状としては食道がんと似ていますが、この病気自体は悪性ではありません。まずは薬を飲んで頂きますが、症状が改善しない場合は内視鏡を用いて狭い場所を拡張したりします。これらを行っても症状が持続する場合、手術を行います。逆流性食道炎や食道裂孔ヘルニアと同様に、ほとんどの患者様に対して腹腔鏡での手術を行っています。

食道図14 図14

(アカラシアの食道造影画像 食道の下部が収縮したままの状態でバリウムが流れず、上部の食道が拡張している)

 

4.患者様に向けて

 私どもは食道がんを中心として食道疾患全般に対しての治療を行っております。

 特に食道がんにおいて、2012年は13例の内視鏡治療と51例の根治手術を行っております。手術では比較的早期の食道がんに対して、胸腔鏡や腹腔鏡を用いた体に負担の少ない手術を行っております。進行がんに対しては従来通りの開胸・開腹手術を行い、さらに補助としての化学療法や放射線療法も駆使して、患者様にとって最も良い結果が得られるように努力しております。私どもに初めて受診されたときから入院治療、その後の外来診療にいたるまで、長くにわたり患者様と一緒に病気と向き合ってまいりたいと存じます。どうぞ安心して受診してください。

 

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