脳卒中の診断と治療

 日本人における死因の第3位が脳卒中であり、人口10万人あたり一年間に約400名が発症し、そのうち約100名の患者様が亡くなっております。なかでも脳梗塞は脳卒中の約60%を占めており、その治療・予防は非常に重要であると考えられます。
 また、脳卒中は日常生活活動、生活の質(Quality of Life:QOL)を阻害する最大の要因であり、寝たきり状態の大きな要因となっております。現在、寝たきり状態となられている患者様が増えつつあり、2010年には170万人に上ると推定されております。
 私どもの病院では、脳卒中の急性期加療から予防、さらにはリハビリテーション科および当大学関連病院との連携による慢性期加療にいたるまで、幅広く脳卒中の診療にあたっております。

 脳卒中は早期治療が不可欠な疾患であり、私たち神経内科では、脳卒中に対して24時間態勢で診療に当たっております。今後保険適応となる可能性が高い、脳梗塞を治癒することが可能な血栓溶解療法に対しても万全の準備が整っております。
 私たち神経内科では、脳卒中の撲滅を目指して日夜精進しております。すこしでも“手足が動かない”などの症状が現れた場合には、様子を見ることなく、すぐに来院していただけると幸いです。また、脳卒中が疑われる患者様がいらした場合、ご連絡をいただければ全力で対処させていただきたいと存じます。

文責
獨協医科大学 神経内科
竹川英宏、平田幸一
脳卒中を疑う症状は?
 欧米で言われている“ブレイン・アタック”キャンペーンでは、@半身の運動・感覚障害(力が入らない、しびれる)、A意識障害と言語障害(しゃべりづらい)、B突然の視力障害、C歩行障害・めまい・ふらつき、D激しい頭痛、の5つを挙げています。

 脳卒中は症状の起こり方にも比較的特徴があります。動脈硬化により脳の血管が閉塞して生じる脳血栓は、比較的朝方発症が多く、“朝起きたら片方の手足の動きが悪い”、“朝起きたら呂律がまわらない”などと訴える患者様が多くいらっしゃいます。 
これに対して心臓の不整脈などが原因で発症する心原性脳塞栓は、“仕事中に突然手足が動かなくなった”などと、日中突然発症することが多く見られます。
また、くも膜下出血は“今まで経験したことのないような激しい頭痛を訴えて、倒れた”など、激しい頭痛を伴うことが特徴となっております。

 脳卒中は治療が遅れるほど重篤な後遺症を残すことが多く、場合によっては“生命”の危険を伴う疾患であるため、緊急入院を必要とする疾患であります。“おかしい”と感じたら、すぐに専門病院を受診する必要があります。

 また、脳梗塞の場合には、症状により超急性期治療で治癒できる場合がありますが、それも発症3時間以上経過してしまうと適応がなくなってしまいます。
脳卒中になりやすい人は?
 特殊な例を除いて、50歳以上の方ではいつ脳卒中を起こされてもおかしくなく、10歳年を取るごとに危険率は約2倍ずつ増加します。性差では男性に多い傾向があり、家系内に脳卒中を発症された方がいらっしゃると、その危険率はさらに約2倍増加します。
 生活習慣病としては、高血圧が最も強く脳卒中と関係しており、特に収縮期血圧が160mmHg以上では4〜5倍の危険率があると言われております。また、コレステロールが高い方や、血糖値が高い方、不整脈(特に非弁膜性心房細動)がある方も脳卒中になりやすいと言われております。
 この他、喫煙、飲酒も強く脳卒中と関係が認められております。喫煙者では脳卒中発症率が約2倍に増加し、飲酒も一日1.5合を超えると発症率が増加します。
脳卒中の危険因子と予防
 脳卒中は重篤な後遺症を残す事が少なくなく、発症・再発予防が重要となっております。しかし、脳卒中は不整脈や動脈硬化という病態の結果生じる疾患であり、これら原因となっている疾患の予防、治療が重要となっております。
 年齢や性別など修正不可能な因子は仕方がありません。しかし生活習慣の改善は可能です。危険因子として重要なのは、生活習慣病と言われている、高血圧、糖尿病、高脂血症があります。また、タバコやお酒といった嗜好も重要な要因となっております。
 食生活では塩分制限(一日6〜10g)、カロリー制限(1日2000Kcal以内、糖尿病がある方は更に制限が必要です)、青魚を摂取し、一日5種類以上の野菜・果物を取ることも大切です。また適度な運動も脳卒中予防には重要で、一日30分程度の早歩きやジョギングなどが効果的です。時間的に困難でも、男性で約9000歩、女性で約8000歩、高齢者でも6700歩程度歩くことが大切です。禁煙・禁酒は重要であり、水分をまめに摂取することも効果的です。また、特に冬場は夜間トイレに行く際に必ず上着を羽織り、急激な温度差に体をさらさないようにすることも忘れてはいけません。
 この他、心臓病(とくに不整脈)や、特殊な血液疾患、片頭痛などがあります。
 各専門分野の医局と協力のもとこれらの疾患の治療に当たっております。私たち医局では、頭痛外来を設けており、片頭痛の専門的治療も行っております。
脳卒中の分類
 脳卒中は大きく分けると、脳の血管が詰まってしまう“脳梗塞”と、脳の血管が切れて出血する“脳出血”に分類されます。さらに脳梗塞は動脈硬化が原因で起こる“脳血栓症”と、心臓(特に不整脈)が原因で起こる“心原性脳塞栓症”に分類され、脳出血は主として高血圧が原因で起こる“脳内出血”と、動脈瘤が原因で起こる“くも膜下出血”に分類されます。

1. 脳梗塞
 脳梗塞はNINCDS-V分類で、発症機序から、血栓性、塞栓性、血行力学的の3群に、さらに臨床病型より、アテローム硬化性血栓、心原性脳塞栓、ラクナ梗塞、その他に分類されます。
A. ラクナ梗塞
 基底核、視床や橋などの穿通枝動脈領域にみられる1。5cm以下の比較的小さな脳梗塞で、その臨床症状には特徴があります。一側顔面下部と同側の上下肢の麻痺を呈する純運動性不全片麻痺、一側顔面と同側上下肢のしびれを生じる純感覚性卒中、構音障害(呂律緩慢)と一側上肢の巧緻運動障害(上手に手が使えなくなる状態)が出現する構音障害・手不器用症候群、脳ドックなどで偶発的に発見される無症候性脳梗塞などがこれにあたります。
B. アテローム血栓性梗塞
 脳を栄養している比較的大きな動脈に生じた動脈硬化が原因で、その主幹動脈が狭窄・閉塞し発症する脳梗塞をさします。日常生活の欧米化にともない現在増加傾向を示しており、今後の脳卒中加療に重要な位置を占めております。基礎疾患に高脂血症や糖尿病、高血圧などがあり、タバコなどの嗜好品も深く関係しております。意識障害や、失語(言葉がでてこない、理解できない)などの高次機能障害を示すことが多く、重度な後遺症を残すことも少なくありません。また、脳梗塞を発症する前に、同様な症状が一過性に出現し、24時間以内改善する、一過性脳虚血発作をみることもあります。
C. 動脈原性塞栓
 アテローム血栓性梗塞と同様に、比較的大きな血管の動脈硬化で発症します。通常アテローム血栓性梗塞は、夜間・朝方の発症が多く認められますが、動脈原性塞栓は、日中突然発症も珍しくありません。これは、非常に破れやすく、もろい動脈硬化が破け、その“くず”が脳の血管を閉塞することにより生じます。
 頸部にある総頸動脈の動脈硬化がその原因にあることが多く、頸部触診中に発症することもあり、頸部の血管の評価が非常に重要となります。当院では超音波検査により、非侵襲的に頸部血管の評価を行なっております。
D. 血行力学性梗塞
 脳を栄養している太い動脈(主幹動脈)に、もともと細いところがあると、過度の血圧低下、脱水症状などにより、脳梗塞を起こす場合があります。
E. 心原性塞栓
 心臓の不整脈などが原因で心臓内に血の塊ができ、その塊が脳の動脈を閉塞することにより発症します。太い血管が閉塞することも少なくなく、“生命”に関わる重篤な症状を呈することも少なくありません。
 原因として最も頻度が高いのは、心房細動と言われる不整脈です。この他、人工弁(特に機械弁)や洞不全症候群、発症4週間以内の心筋梗塞、拡張型心筋症、感染性心内膜炎などがあります。
 また、近年注目されている“エコノミークラス症候群”は、下肢、とくにふくらはぎにできた静脈の血栓が、肺の動脈を閉塞することで生じますが、これに心臓の奇形が加わると脳塞栓(奇異性脳塞栓)を発症します。当院では、超音波検査で下肢静脈血栓の診断も行なっております。
F. その他
 一昔前まで脳卒中は高齢者の病気と考えられておりました。しかし現在では、50歳以上であればいつ脳卒中を発症してもおかしくないと言われております。50歳に満たない方が発症する場合、脳血管奇形や抗カルジオリピン抗体症候群などの血液疾患が基礎にあると考えられます。また若年者に限らず、脳の動脈解離による脳卒中も注目されておりますが、当院では超音波検査に加え、CT写真による立体的な脳血管評価を行ない、さらには脳外科と協力し脳血管撮影、脳血管内治療専門医による血管内治療なども行っております。
 この他、脳静脈血栓などの特殊な脳梗塞に対しても、当院では脳外科との協力のもと、積極的な加療を行なっております。
2. 脳出血
 脳梗塞は脳血管の閉塞で生じますが、脳出血は脳血管が破状し脳内に直接出血する、脳内出血や、脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血があります。
A. 脳内出血
 原因として高血圧が最も多く認められます。高血圧性脳出血の場合、被殻、視床、橋などに多く出現します。この他脳血管奇形や、血管炎、白血病などの血液疾患が原因として挙げられます。発症時間は午前中に多いと報告されております。
B. くも膜下出血
 激しい頭痛をともなうことが多く、発見・治療が遅れると“生命”に関わることも少なくありません。起床後数時間以内に発症することが多いと言われております。
 当院では脳内出血と同様に、24時間態勢でCT写真や、MR写真により診断を行なうほか、脳血管の3D CT写真での動脈瘤評価、脳外科との協力のもと、外科的治療および、血管内治療を行なっております。
脳卒中の治療
 脳卒中では、脳梗塞と脳出血で治療方法が大きく異なります。

A. 脳血栓(ラクナ梗塞、アテローム血栓性梗塞、動脈原性塞栓、血行力学性梗塞)
 動脈硬化が原因で発症する脳血栓では、抗血小板剤や抗凝固剤が用いられます。わが国では、急性期にオザグレルナトリムやアルガトロバンが用いられます。
 慢性期における再発予防としては、アスピリンやチクロピジン、シロスタゾールがあります。
B. 心原性脳塞栓
 抗凝固剤である、ワルファリンが用いられます。以前よく使用されていたヘパリンは,大規模研究により、その効果が不明瞭となりました。
 しかし、ワルファリン治療初期に、一過性の過凝固となる場合があり、当院ではヘパリンの投与も短期間おこなっております。
C. 脳内出血
 血圧管理、止血剤が治療の中心となります。場合により、血腫除去術や、水頭症合併時に脳室ドレナージなどの外科的手術を行うことがあります。
D. くも膜下出血
 脳内出血と同様、血圧管理が重要となります。これに伴い、動脈瘤を直接クリップで破裂しないようにする手術や、動脈内に細い管を通して、動脈瘤の内側からコイルを詰めて破裂しないようにする血管内手術があります。
 当院では、脳外科との協力の下、これらの外科的手術にも24時間対応しております。
E. 抗浮腫療法
 脳卒中では、梗塞・出血による症状のほか、その病巣の周囲が浮腫むことにより、さらに状態の悪化を生じます。これに対し、グリセオールなどが有効とされております。
F. 脳保護療法
 脳梗塞では梗塞巣周囲に、脳梗塞になりかけている部分が存在します。このような部位を脳梗塞にしないようにするための治療法です。わが国ではエダラボンが有効とされております。しかし、腎機能障害や肝機能障害などを認めることがあり、使用には注意が必要であります。
 当院では、採血などの厳密な管理のもと使用しており、効果をあげております。
G. 血圧管理
 脳卒中では発症直後より血圧の上昇を認めます。
 脳梗塞では185〜220/105〜120mmHg以下に、脳出血では140〜160/80〜90mmHg程度にコントロールする必要があります。しかし、脳動脈に狭窄のある脳出血では、血圧低下に伴い脳梗塞を併発する場合があります。この場合には、発症24時間以後の収縮期血圧を180mmHg程度にコントロールを行ないます。
H. その他
 脳卒中における急性期の発熱は予後を増悪させることが知られております。このため、当院では腋窩などの積極的な冷却、解熱剤の使用を行なっております。また、急性期の高血糖状態も予後を悪くすることが知られており、急性期加療では厳密な血糖値のコントロールも行なっております。
脳卒中の重症度診断
 脳卒中の急性期重症度評価には、NIH脳卒中スケールが有名ですが、日本脳卒中学会は1994年にStroke Scale委員会を設置し、1999年にJSS(Japan Stroke Scale)を発表しております。この評価は、脳卒中患者様における重症度を定量的に評価することが可能であり、今後わが国において、主要な評価スケールとなると考えられております。
 また、慢性期における評価方法には、Barthel Index、modified Rankin Scaleなどが存在します。このほか、脳卒中発症後に見られる、うつ状態の評価方法として、脳卒中学会から“脳卒中感情障害(うつ・情動障害)スケール”が発表されました。
 当院でも、これらの評価方法を用い、正確に患者様の急性期、慢性期の評価を行なっております。
脳卒中に必要な検査
 脳卒中の診断には、その症状からの病巣の推察のほかに、画像診断が重要な位置を占めております。

A. CT写真
脳卒中を疑った場合、すぐに施行すべき検査です。これにより脳梗塞、脳出血の鑑別が可能となります。当院では24時間態勢で検査を行なっております。
また、脳の血管を立体的に撮影することも可能であり、動脈瘤などの血管奇形に対しても有効となっております。
B. MR写真
 脳梗塞の場合は、発症早期にはCT写真では病巣の確認が不可能なことが多く見られます。MR写真では、発症30分〜1時間後より病巣の確認が可能であり、また、脳の血管の描出も行なうことができます。さらに、くも膜下出血の場合、CT写真で描出が不可能であった場合にも、FLAIR像を撮影することにより診断が可能であります。
 脳卒中診療においては欠かせない検査であり、当院でも実施しております。しかし、心臓のペースメーカーなど金属が体内にある場合には、撮影が不可能なこともあります。
C. エコー検査
 非侵襲的に血管の評価が可能な検査であり、CTと並び脳卒中ではまずすべき検査の1つとなっております。これにより、動脈硬化の程度、さらにはその動脈硬化がもろくて破けそうであるか、なども診断可能な検査で、当院では24時間態勢で行なっております。
 また、当院では頸部血管の評価はもちろんのこと、経頭蓋超音波検査で脳内の血管の評価や、四肢動脈の評価、さらには四肢静脈の検査も行なっており、四肢動脈狭窄による冷感や疼痛、静脈血栓の存在などにも対応しております。さらに、当院では、微小な血栓が脳血管などに飛んでいないかなどの検査も行なっております。
 心臓の超音波検査も重要であり、とくに心原性塞栓では、経食道心エコー検査も行なう場合があります。
D. シンチグラム
 脳の血流状態を、写真で表わす検査方法です。これにより、実際に脳のどの部分の血流が障害されているかが判別できます。脳動脈の高度狭窄や閉塞に対する、手術の適応などにも応用されており、当院でも脳外科と協力のもとに行なっております。
E. 血圧測定
 血圧は常に一定の値を示してはおりません。通常朝方に一時的に高くなり、夜間睡眠中に下がります。脳卒中慢性期には血圧のコントロールが重要となりますが、患者様1人1人の血圧の変動パターンを考慮し降圧剤を使用することが重要となります。
 当院では24時間血圧計で、患者様の血圧変動を考慮した治療を行なっております。
 また、血圧の変動には自律神経の関与が知られておりますが、当院では自律神経の評価も行なっており、治療に役立てております。
脳卒中の合併症
 脳卒中では、嚥下機能(飲み込み)障害で、誤飲性肺炎や、排尿障害などで、尿路感染症などを併発することが良く見られます。
 脳卒中急性期における、これら感染症の合併は、予後を悪くすることが知られています。
また、麻痺側の下肢(特にふくらはぎ)の静脈内に血の塊(血栓)が形成され、エコノミークラス症候群で知られている、肺塞栓症を合併することもあります。
 このような合併症で窒息などの急激な呼吸障害で突然死を起こすこともあるため、当院では、レントゲンや採血、下肢静脈エコー検査などにより、その予防に力を入れております。
お知らせ
 日本人では,脳卒中は死因の第3位であり,人口10万人あたり,一年間に約400名が発症されております.さらに脳卒中は,“寝たきり状態”の大きな原因となっております.当施設は脳卒中拠点医療機関として,関連施設とともに全力で治療に当たっております.そこで,一般の方々に,脳卒中のことについて詳しくお話をさせていただく機会を設けさせていただいております.
 2004年度は,作家である,元聖マリアンナ医科大学神経内科助教授 米山公啓先生(ホームページ:http://www21.ocn.ne.jp/~yoneyone/profile.htm)にご講演を賜り,2005年度は,タレントの坂上二郎様にお願いをいたしました.2回とも大変な反響をいただきまして,私ども大変うれしく感じております.
 私どもの施設は,日本脳卒中協会(ホームページ:http://www.jsa-web.org/)の栃木県支部として活動をしております.
 活動内容としては,皆様から,脳卒中のご質問などについてお答えさせていただく,“脳卒中なんでも電話相談”や,脳卒中市民公開講座の開催などがあります.
 脳卒中市民公開講座では,前述にもありますように,毎年,様々な先生方をお招きして,わかりやすく,楽しめる会を開催していく予定であり,数多くの皆様方のご参加をお待ち申しております.
お問い合わせ先:獨協医科大学 神経内科 竹川 英宏

TEL:

0282−86−1111(内2720),FAX:0282−86−5884 
日本脳卒中協会栃木県支部
脳卒中なんでも電話相談: 0282−86−2501(電話・ファックス共通)
電話相談は毎月第1土曜日,午前10時から午後4時
ファックス相談は毎週月曜日〜土曜日午前10時〜午後4時
       (ファックス相談のご返答は後日となります)
脳卒中のお話し(脳卒中に関するリーフレット
栃木県下都賀郡壬生町北小林880番地  外来受付電話 0282-87-2198