ご挨拶

獨協医科大学医学部・大学院医学研究科
病理学講座主任教授 矢澤卓也

「がんは遺伝子病である」。現在ではもはや常識となった概念ですが、がんを引き起こす病原体、ラウス肉腫ウィルスが発見されたのは1911年、がん遺伝子の正体がようやく明らかになったのは1970年代に入ってのことでした。それ以来、分子生物学の進歩とともに加速度的に遺伝子工学は発展し、人類は、分子標的治療という、異常ながん遺伝子産物をターゲットとした新たながん治療法を手に入れるまでになりました。遺伝子研究の進歩は、非腫瘍性疾患の疾患メカニズム解明についても革命的な変化をもたらし、また人工的に幹細胞を作製する方法の発見・開発は、機能障害を起こした臓器を抱える患者さんに福音と希望をもたらすに至っています。

このようにScience、Medical Scienceの進歩した現在において、病理学に与えられた使命は何か?私は、医科学領域において病理学が果たすべき役割は大きく2つあると考えています。1つ目は、最新の遺伝子医学の知見を踏まえた病理診断、そしてもう1つは疾患メカニズム解析から得られた知見を基盤とした新たな診断法・治療法の創生です。病理学は疾患臓器の異常像を主に形態面から肉眼的・顕微鏡下に観察し、そこから得られた所見を体系化してきた分野であり、長い歴史を有する学問領域です。つまり、病理学は疾患の実像を客観視できるという強みをもった医学分野であり、この病理学の強みを生かし、多種多様な、そして多数の疾患の実像観察により沸き上がってくる研究モチーフを基盤とした研究を推進し、新たな診断法や治療法を創り出すことにより医科学の進歩に貢献していくことが本研究室の存在理由ではないか、と私は考えています。

多人数が集まって研究活動を行っていくにあたり、大切なことがあります。それはオリジナリティーと協力です。研究にはオリジナリティーが強く求められます。では本当のオリジナリティーはどのようにすれば涵養できるか。あくまでも実体験ではありますが、それはまず「自分が自分の洞察力を信じられるようになるまで観察を繰り返すこと」、そして「自分を信じられるようになったら何があっても自分を信じ続けること」、「自分のアイデアに対する他人からの批判的意見に対しては、少し斜めから自分のアイデアを客観的に眺めてみること」、ではないかと思います。しかし、ただオリジナリティーを追い求めるだけでは研究室は成り立ちません。もし隣の席の研究者がすばらしいアイデアを持っていたなら、研究室として一致団結し、そのアイデアを大きく発展させるために力を合わせましょう。大きな成果の先には、これまで気づかなかった新たなアイデアが、あなたにも生まれてくるかもしれません。