慢性呼吸器疾患(CRD)とは

COPDのファクト

危険因子

 COPDを引き起こす原因の大半は喫煙であるが、その他の因子も関与する。COPDの危険因子と考えられているものを以下に示す。全てのCOPD発症のリスクは、本質的には遺伝子と環境の相互作用であると考えられる。したがって、高齢化により、危険因子への累積曝露は増加すると考えられる。

遺伝子:

 COPDは多遺伝子性疾患であり、遺伝子−環境相互作用の典型的な例である。遺伝的危険因子で最もよく証明されているのは、α-1アンチトリプシン欠損症である。その他、TGF- β1、mEPHX1、TNFαなどが報告されている。

タバコの煙:

 タバコ喫煙は最も重要なCOPDの危険因子である。喫煙者は非喫煙者に比べて呼吸器疾患や肺機能異常の罹患率が高く、FEV1の年間低下率およびCOPDによる死亡率も高い。喫煙者のCOPDの発症リスクは、喫煙量に関係している。喫煙の開始年齢、年間喫煙量、喫煙年数、現在の喫煙状況は、COPDによる死亡の予測因子となる。タバコの煙への受動的な曝露(環境中のタバコの煙、ETS)も粒子状物質やガスの吸入による肺の全体的な障害を高め、呼吸器疾患やCOPDの原因になる可能性が高い。妊娠中の喫煙も胎児期の肺の成長・発生過程、そしておそらくは免疫系のプライミングに影響する。

吸入性曝露物質:

 吸入物質は、粒子の大きさや組成によってリスクが異なるとともに、曝露の蓄積量とともにリスクは大きくなる。吸入性曝露物質のうち、タバコの煙と職業上の粉塵および化学物質(蒸気、刺激性物質、煙)については、それ自体がCOPDの原因となることが分かっている。また、換気が不十分な室内における有機性燃料の燃焼煙の影響も指摘されている。

職業上の粉塵や化学物質:

 職業上の曝露には、有機・無機粉塵、化学物質、煙が含まれる。米国で行われた母集団に基づく研究であるNHANES(国民健康栄養調査) III調査では、職業上の曝露によるCOPD発症は、COPD全体の19.2%、非喫煙者では31.1%と推定している。

屋内大気汚染:

 木材、動物の糞、作物残留物、石炭を直火あるいは十分な機能の無いストーブで使用すると、高度の屋内大気汚染につながる。換気が不十分な室内における動植物から再生した有機性資源燃焼による調理・暖房による屋内大気汚染が、重要なCOPDの発症危険因子であるというエビデンス(特に発展途上国の女性において)が増えている。

屋外大気汚染:

 現在では、COPD発症における屋外大気汚染の役割は喫煙に比べると小さいと考えられる。しかしながら、化石燃料の燃焼、主に都市部における自動車・オートバイからの排気は、呼吸機能の低下と関連している。

肺の成長・発達:

 肺の成長は、胎児期の発生過程や、出生、小児期の曝露と関連している。成長後の肺機能の最高値が低いと、COPD発症リスクが高い。胎児期・小児期に肺の成長に影響する全ての因子が、COPD発症の危険因子を高める可能性がある。

酸化ストレス:

 肺は、貪食細胞などにより内的に発生するオキシダントや、タバコの煙などの外来のオキシダントに常に曝されているが、酵素的・非酵素的なアンチオキシダントシステムにより、これらの酸化ストレスから守られている。オキシダントとアンチオキシダントのバランスが崩れ、オキシダントの過剰あるいはアンチオキシダント不足の状態になると、酸化ストレスによる障害が生じる。オキシダントとアンチオキシダントのバランスは、COPDの病因において重要な役割を果たしていると考えられている。

性別:

 これまで、COPDの罹患率と死亡率は、女性よりも男性の方が多いとされてきたが、先進国における研究では、現在罹患率は男性と女性の間でほぼ等しいことが示されている。これは喫煙状況の変化を反映していると思われる。一部の研究では、男性よりも女性の方がタバコの煙に対する感受性が高いことが示されている。女性の喫煙率は増加しており、この問題は今後重要となる。

感染:

 感染は、COPDの発症と進行に関与している可能性がある。細菌感染は気道炎症と関連しており、増悪においても重要な役割を果たしている。小児期に重度感染症の既往がある場合、これは成人期における肺機能低下および呼吸器症状の増悪に関連する。ウイルス感染はCOPD増悪の重要な因子であるが、COPD発症にも関与している可能性がある。

社会・経済的状況:

 COPDのリスクは社会・経済的状況と負の相関にあるとするエビデンスがある。しかしそのような傾向は、屋内外の大気汚染物質や人の密集、栄養不良など、社会・経済的状況が低いことと関連する因子への曝露を反映している可能性が高い。

栄養状態:

 飢餓や同化/異化状態が、気腫の発症と関係することが動物実験により示されているが、栄養状態がCOPD発症の独立した危険因子かどうかは不明である。栄養不良と体重減少により呼吸筋の強さと持久性が減少するが、これは呼吸筋の量が減少し、残された筋線維の強さが減少するためだと思われる。

喘息:

 十分なエビデンスは得られていないが、喘息はCOPDの危険因子である可能性がある(Dutch Hypothesis)。しかし、現在のところこの両者はことなる疾患と考えるのが、世界的なコンセンサスである。