慢性呼吸器疾患(CRD)とは

COPDのファクト

管理・治療

1.COPD治療・管理の基本方針
 COPDは早期に診断し治療を開始すれば、呼吸機能の低下を防ぎ、QOLを維持することが出来る。その治療・管理においては重症度に応じた段階的な治療が推奨されている。すなわち、禁煙、薬物療法、呼吸リハビリテーション、長期酸素療法、外科的治療を重症度に応じて用いる。
 図6に、重症度別のCOPDの治療方針を示している。全ての患者に禁煙とインフルエンザワクチンの接種が推奨される。

図6

 軽症以上の患者では薬物療法が必要であるが、軽症では通常症状のある時のみの気管支拡張薬の頓用でよい。中等症以上になると、日常的な気管支拡張薬の服薬が必要となる。したがって、外来において定期的な管理が必要となるのは中等症以上が多い。気管支拡張薬は、単剤から開始し必要に応じて多剤の併用を行う。重症では、これらに吸入ステロイドを追加するが、その理由は後述する。最重症ではこれらの全ての治療に加え、慢性呼吸不全や合併症の治療を行い、外科療法の適応を検討する。
 また、COPD患者の運動耐容能・QOLを維持していくためには、日常生活での適度な運動、可能ならば在宅あるいは通所リハビリテーションの継続が必要である。息切れのため運動しないと、さらに運動耐容能が低下し、またさらに運動しなくなるという悪循環が進行していくためである。さらに、COPD患者では栄養障害を認めることが多く、これらは予後とも関連していることが報告されている。日常的な食事指導や栄養補給療法の併用なども考慮する必要がある。これらの非薬物療法がCOPDの管理には必要である。

2.薬物療法
 COPDは気道の炎症によって生ずる閉塞性障害と過膨張を特徴とする疾患である。現在、COPDの炎症に対しては吸入ステロイドも含めて有効な治療はなく、COPDを根本的に治療する方法はない。しかしながら、COPDは気管支拡張薬によりある程度の可逆性を示すことが知られている。したがって、COPDの治療においては、喘息と異なり、吸入ステロイドよりも気管支拡張薬が第一選択と考えられる。COPDに対して、気管支拡張薬は症状を軽減させ、運動耐容能も向上させ、QOLを改善させる。さらに、増悪の頻度や重症度を低下させることが報告されている。呼吸機能に明らかな変化が認められなくても、気管支拡張薬により肺の過膨張が軽減されると、運動耐応能やQOLの改善が認められる。スパイロメトリーではFEV1の改善よりも、FVCやIC(最大吸気量)の方がよい指標となることが多い。
 気管支拡張薬には、抗コリン薬、β2刺激薬、テオフィリンがあるが、長時間作用型のものの吸入投与が望ましい。吸入薬は、手技により効果が異なるので必ず吸入指導を行うことが大切である。高齢等により吸入手技に不安のある場合は経口、貼付剤も考慮する。

(1)抗コリン薬

 抗コリン薬は迷走神経終末から放出され気道平滑筋に対して収縮的に作用するアセチルコリンに対して拮抗的に作用し、気管支拡張を起こす。抗コリン薬も長時間作用型のチオトロピウム(スピリーバ)の効果が報告されている。抗コリン薬の気管支拡張作用は気管支平滑筋のM3受容体の拮抗作用による。長時間作動型抗コリン薬であるチオトロピウムはM3受容体からの解離が遅く1回の吸入で作用が24時間持続する。チオトロピウムでは肺機能、QOL、急性増悪などを有意に改善するが、長期間にわたっても薬剤耐性が出現しないことが報告されている。

(2)β2刺激薬

 気道平滑筋のβ2受容体を刺激し、細胞内cAMP、引き続いてプロテインカイネースA上昇を介し気道平滑筋拡張作用を示す。近年長時間作動性のβ2刺激薬吸入がCOPDに用いられ良い成績が報告されている。サルメテロール(セレベント)では12時間に及ぶ気管支拡張作用の他、抗炎症作用が報告されている。臨床的にも自覚症状の軽減、QOLの改善などに加え、急性増悪を減少させることが報告されている。最近、貼付型のβ2刺激薬ツロブテロール(ホクナリンテープ)のCOPDに対する有用性が報告されている。

(3)テオフィリン

 テオフィリンの気管支拡張作用はphospholiesterase (PDE)阻害による気道平滑筋のcAMP上昇によると考えられ、臨床的にもCOPD患者の気道拡張と肺気量の減少をもたらすことが報告されている。また、抗炎症作用や、呼吸筋力増強作用なども報告されている。安定期COPD管理においては徐放性経口薬(テオドール、ユニフィル、テオロング)が用いられる。

(4)吸入ステロイド

 COPDの炎症は、喘息と異なり、ステロイドに対する感受性はよくないと考えられている。事実、吸入ステロイド薬は、呼吸機能で評価したCOPDの進行には抑制効果を示さないことがいくつかの大規模試験で示されている。しかしながら、%FEV1が50%未満の重症COPDでは、吸入ステロイド療法が増悪の回数を減らし、患者QOLの悪化速度を抑制すると報告されている。さらに近年、吸入ステロイド、長時間作動型β2刺激薬の合剤は呼吸機能の改善が有意に優れていると報告されている。したがって、COPDに対する吸入ステロイド療法は重症で増悪頻度が比較的多い患者に薦められる。近年、吸入ステロイドと長時間作用型β2刺激薬合剤のCOPDに対する効果が報告されている。

3.非薬物療法
 COPDでは、薬物療法と同時に非薬物療法を含めた包括的な管理が必要である。COPDの非薬物療法としては、禁煙、呼吸リハビリテーション、酸素療法、換気補助療法(非侵襲的人工呼吸、経気管的人工呼吸)、栄養管理、外科療法(肺容量減量手術、肺移植)などがあるが、このうち外来診療で必要となるものについて述べる。

(1)禁煙

 禁煙はCOPDの進行を遅らせることが出来る最も有効な方法である。禁煙には、行動療法と薬物療法の併用が有効である。外来受診のたびに、1回数分でもよいので患者に対する動機付けや不断の励ましを行い、必要な患者にはニコチン代替療法を行う。

(2)呼吸リハビリテーション

 呼吸リハビリテーションは、COPDの非薬物療法の中で最も重要なものであり、自覚症状の軽減、運動耐容能やQOLの向上、医療機関の利用率の減少などの効果が期待できる。運動療法としては、特に下肢筋力の訓練が最も重要である。導入は、出来たら専門的に評価し個々のリハビリテーションプログラムを作成することが望ましいが、どこの施設でも可能ではない。また、呼吸リハビリテーションは継続しなければならないが、入院や初期の通院での導入は出来ても、在宅での継続が出来ないことが多い。このようなときでも放置するよりも、1日一定の歩数だけ歩いてもらい日記に記録するなどの、それぞれの施設で可能な方法をとることがよい。このように可能な方法をとりながら、定期的に専門施設で評価を受け、方針を変更するなどの病診連携が勧められる。

(3)栄養管理

 COPDでは、体重減少が気流制限とは独立した予後因子であることが報告されている。これには数多くの因子が関与していると考えられているが、その詳細は未だ明らかではない。したがって、積極的な栄養補給療法の適応であるが、最適な治療法に関するコンセンサスは必ずしもない。現時点では一般的に、高カロリー、高蛋白で、腹部膨満を来さない食事を基本とし、そのためには分食や栄養補助食品も勧めるようにする。

(4)酸素療法

 長期間酸素療法 (Long-term oxygen therapy: LTOT) は、生命予後の改善、QOLの改善、肺高血圧の改善などについて、数々の高いエビデンスが示されている。酸素療法の適応の決定は、PaO2が55Torr以下の者、およびPaO260Torr以下であっても睡眠時または運動負荷時に著しい低酸素血症を来し、医師が在宅酸素療法を必要であると認めた者が適応となる。適応患者の判定に、パルスオキシメータを用いてもよい。導入の際には、患者本人とともに家族への酸素療法の理解と教育を促すことが大切であり、専門医を受診させた方がよい。

(5)換気補助療法

 近年、鼻マスク式の非侵襲的間歇式陽圧呼吸 (noninvasive intermittent positive pressure ventilation : NIPPV) を用いた在宅人工呼吸が増加傾向にある。しかしながら、慢性安定期のNIPPV療法の有効性を示すエビデンスは、現状では得られていない。表1に現時点でのCOPDの安定期、増悪期におけるNIPPVのエビデンスをまとめているので、これを参考に適応を決める。導入には、多専門職種が参加した医療チームによる包括的なアプローチが必要であり、一度専門医を受診させた方がよい。

4.外来時の患者支援
 特に、重症以上のCOPD患者では日常生活が制限され、社会的経済的な支援が必要となることが多い。このようなとき利用できる社会保障制度として、介護保険と身体障害者福祉法(身障法)がある。身体障害者手帳をLTOT患者では4級以上、在宅人工呼吸患者では3級以上を取得できる可能性があり、患者や家族の負担を減らすためにも積極的に活用すべきである。表2に身障法で受けることが出来るサービスを示している。身障法は地方自治体の認定を受けた専門医が申請できるので、重症以上のCOPD患者は一度専門医を受診させる。介護認定においてCOPD患者の病態は正確には評価されず、理解も十分ではない。そのため、主治医意見書の記載にあたり“5:その他特記すべき事項”欄には積極的に記載するとよい。