再生医学研究部門

部門長・准教授 井上 健一
准教授 小尾 正太郎
講師 岸本 聡子
助教 山内 忍
助教 相馬 良一
技術員 佐藤 幸江
技術員 齋藤 正子
技術員 鈴木 佐知子

概要

細胞治療が安定した効果を担保するためには、「何がどのように効くのか」という生命現象の理解が必須です。生命体は複雑系であり、異なる細胞間の相互作用が全体のふるまいを規定しています。このような系では試験管内で均一に見える細胞が移植後に、期待されたふるまいを示さないことがあります。本部門では、難病や治療介入をシステム全体として俯瞰する、新規実験系の開発を行っています。進行中の研究プロジェクトとして、細胞移植による閉塞性動脈硬化症の血管新生療法、間質性膀胱炎の根治を目指した膀胱移行上皮の転写因子リプログラミング、発達てんかん性脳症の責任遺伝子IRF2BPLの機能解析、などの研究テーマを扱っています。

活動および研究内容

1.異なる役割を持つ間質細胞が互いに協力して、創傷治癒を促進する仕組みを理解する

吸引皮下脂肪から分離された間質細胞は血管新生能力を有するため、早くから細胞治療への応用可能性が提唱されています。ところが実臨床では、患者の年齢や既往歴、生活習慣などが細胞の数や品質を左右するため、安定した治療効果を得るのが容易ではありません。我々は下肢虚血モデルマウスの細胞移植を実施する過程で偶然、怪我をしたマウスの間質細胞が驚異的な再生能を示すことを発見しました。元々間質細胞は感染や傷害などの刺激を感知して、細胞構成を変化させて組織を修復することが知られています。移植に用いる細胞を予め傷害刺激により再構成させておけば、安定した治癒効果が期待できるのではないかと考えました。
怪我をした状態を再現するため、皮下脂肪組織を寸断する処置(injury)と大血管を結紮して虚血にする処置(ischemia)を組み合わせて与えました。すると両者の刺激を組み合わせた場合にのみ、間質細胞の増加と血管申請能の増強が起こることが示されました(下図)。そこでこのような外科処置を「創傷治癒priming」と名付けて、構成細胞の変化や関与する細胞間シグナルについて研究を実施しています(研究費17K09559)。

図の説明
レーザードップラー血流計で血液の流れを可視化しています。下肢虚血モデルマウスの左下肢と尾には血流がありますが、右下肢は大腿動脈結紮によって、血流が遮断されています(Day0)。移植するドナー細胞に予め異なる外科処置(Injury:大血管結紮)を施しました。2つの処置えお組み合わせてはじめて、細胞移植の効果を発揮しました(Day14)。
2.転写因子によるリプログラミング技術を用いて、伸展可能な膀胱上皮をつくる

指定難病である間質性膀胱炎(告知番号226)は、原因不明で根治手段がありません。病型はハンナ型と非ハンナ型に分類されますが、内視鏡検査で確認するまで特定できません。我々は間質性膀胱炎の患者生検からmRNAを抽出し、膀胱上皮の遺伝子発現プロファイルを調べました。決定木と呼ばれる機械学習の手法を用いると、既知のマーカー遺伝子でハンナ型と非ハンナ型を分類できることが分かりました。またハンナ型の潰瘍部位では、幹細胞マーカーの低下が観察されました。これらの観察から、間質性膀胱炎(ハンナ型)では炎症に先立つ変化があることが推察され、重篤な潰瘍部位では幹細胞が枯渇している可能性が示唆されました(科研費19k18596)。
間質性膀胱炎の激しい疼痛は、伸展可能な移行上皮の機能不全により引き起こされます。ハンナ型の潰瘍部位で幹細胞を補填することで、移行上皮の正常な伸展機能を回復できるのではないかと考えました。幹細胞学の分野では先立って、iPS細胞やニューロン、膵臓β細胞などのリプログラミング(分化転換)法が開発されています。リプログラミングは、山中カクテルに代表されるマスター転写因子の組み合わせにより達成できますが、膀胱上皮のマスター転写因子に関する報告はありません。そこで我々は、複数の膀胱癌細胞下部の上皮マーカーと幹細胞マーカーを計測し、移行上皮に性質が似ている細胞株を活用しました。これらの細胞株から89のマスター転写因子候補を選別し、幹細胞マーカーと遺伝子発現が相関する12の候補について、リプログラミングの検証実験を行なっています。(科研費16k11059)

IMPACT誌による共同研究者インタビュー

https://www.ingentaconnect.com/content/sil/impact/2019/00002019/00000007/art00013

3.発達性てんかん脳症患者由来ips細胞を分化誘導して、新規薬理標的を探索する

昨年アメリカとフランスで同時に、発達性てんかん脳症の責任遺伝子(IRF2BPL)が同定されました。
我々は先駆けて類似の症例の患者由来iPS細胞を樹立していましたがこの細胞にもIRF2BPLの点突然変異が確認されました。IRF2BPLはショウジョウバエPitと進化的に保存された遺伝子であり、Pitの異常は神経変性を引き起こします。そこでBatlor医科大学のショウジョウバエ遺伝子学者と共同研究を開始し、Pit変異体とIRF2BPL変異ips細胞に共通して見られる表現型を調べています。

IRF2BPL財団ウェブサイト

https://irf2bpl.zohosites.com/

担当教科

医学部
第1学年 統計数学
第1学年 FBLテュートリアル㆒
大学院 基本医科学